風による振動と解析法

(1) はじめに

(2) 非定常空気力モデル

(3) フラッター方程式と発生する現象の関係

(4) フラッター解析手法と解析手順

(5) 経験的応答推定式

参考文献



(1) はじめに

  本節では、長大吊形式橋梁の動的安定問題を照査するための解析手法を紹介する。

  長大橋の動的安定問題は、風による発散振動問題といってもいいほど風による振動問題の重要性は長大橋の設計において大きい。風による振動問題の内、いわゆ る発散振動は自励振動として扱うことができるため、風速に応じた振動問題としての系の安定性、不安定性の議論がおこなわれる。この理由で動的不安定問題と して扱われている。

風による振動問題は、基本的には風洞実験により照査が行われている。構造的な不確定 性よりも、部材の形状と振動の状況に強く依存する自励空気力(部材の振動を起こす空気力を特に非定常空気力と呼ぶ)を調べることが、照査精度の向上の要件 となっていることがその理由である。したがって、解析的手順によってのみ風による振動問題を照査し、設計の手法とすることは、現在であっても大きな問題は 残る。しかし、超長大橋では振動モード(構造+空気力系の)が複雑であり、また風速に応じて変化するために、最近では解析を併用し設計精度を高める方策が 採られることが多くなった。

風による発散振動については、異なるいくつかの用語が同じ様な意味で使われることが 多いので、問題をわかりにくくしている。詳細は専門書例えば1)に譲り、ここでは、基本的なものをまとめておく。

発散振動: 設計基準の中で発生により機能的な障害が即座に生 じるような大きな振動に発達するものを総称する。風速増加と振動発生の関係は様々であり、風速増加に伴い徐々に振動が大きくなるもの、急に大きくなるも の、など発達の度合いも含めると極めて多様である。

フラッター: もともとは航空機翼のたわみーねじれ振動をいう が、同じ原理で発生するものすべてに用いられるようになった。通常はたわみとねじれが連成することで発達する発散振動のみをいう。しかし、拡張して、空力 弾性振動すべてをフラッターと呼ぶ場合もある。

ギャロッピング: 送電線の振動に由来しており、たわみの発散振動をいう。ねじれは連成しない。

ねじれフラッター: 古くは失速(ストール)フラッターともいい、ねじ れ1自由度の発散振動をいう。Torsional Instabilityといった場合にはねじれフラッターを指す

1自由度フラッター:  ねじれ、たわみ1自由度でも発生する発散振動をいう。

2自由度(多自由度)フラッター:  ねじれ、たわみなど複数の自由度の運動が連成して発生する発散振動

多モードフラッター解析: 古くまげとねじれの2モードで2自由度を代表させ たフラッター解析を複数のモードに拡張したもの。文字の並びから感じるモード間の連成ではなく、発生するフラッターモード形を複数の固有モード形で示めす 解析との見方が正しい。

 
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(2) 非定常空気力モデル

  風による振動の動的解析をする場合、単純にいえば非定常空気力を右辺においた運動方程式を解けばいい。このときの構造側のモデリングと非定常空気力の特性 は、照査方法と照査すべき対象に依存する。

  たとえば、桁の例を含む線状の部材が、水平、鉛直の並進、回転を含む3自由度運動をする場合、非定常空気力は、風に対する迎角(α)、無次元振動数(Ur =U/B/ω)と無次元振幅(A/B)の関数となる係数(非定常空気力係数)を用いて次のように定式化される。ただし、以下の例 のように自由度間で連成する非定常空気力では安定問題は複素固有値解析で扱う都合上、また測定の事情で無次元振幅に依存しない、迎角と無次元振動数が決ま れば定係数の線形の定式化を行わざるを得ない。

Scanlanは係数をフラッターデリバティブと称して次のような非 定常空気力の定式化を、鉛直方向の並進とねじれ2自由度振動について提案している。

自由度に場合

自由度の場合


ここで、B:全幅、U:風速、ρ:空気密度、ω:運動 の振動数、y:鉛直変位、z:水平変位、θ:ねじれ変位、D、L、M:非定常抗力、揚力、空力モーメントである。

  振動自由度に違いがあるが、解析対象自由度を同じくした場合には上の二種の定式化は単純に相互に変換することができ、風速による重みが係数精度に若干違い をおよぼすものの、基本的な同じ定式化であることは明らかである。さて、上の式は柔軟な吊形式橋梁の複雑な振動を考えると自然な定式化ではあるが、非定常 抗力の寄与が発散振動に対し大きいことが明らかになったのは明石海峡大橋全橋模型試験の大きな成果である。しかし、これは明石海峡大橋が長大トラス補剛吊 橋であり、水平方向振動の連成が大きいことの影響が大きいための特殊例であり、非定常揚力と非定常モーメントを考慮すればおおむね振動照査ができると考え られている。

  揚力のたわみ速度同相成分が振動発生に支配的である場合、風速直角方向の発散振動が発生することになり、この場合ギャロッピングと呼ばれる。一方、非定常 モーメントのねじれ速度同相成分が振動発生に支配的である場合、ねじれ方向の発散振動が発生することになり、この場合ねじれフラッターないしTorsional Instabilityと呼ばれる。さらに、すべての係数が有為な一般の場合 では、振動変位に連成がきわめて強く発生することになり、連成フラッターあるいは単にフラッターと呼ばれる。非定常空気力は風洞実験による測定が必要にな るが、ギャロッピングに対し準解析的な準定常理論を適用する例と平板翼のフラッターの調和解析解である平板翼空気力を適用する例は研究レベルの議論ではよ くおこなわれる。また、平板翼空気力は長大吊橋の補剛桁が流線型で平板状と近似しても定性的な議論は可能であると考えられることから、フラッター解析に用 いられることも多い。

準定常理論を適用した場合,振動に伴う相対迎角を導入して非定常空気力は次のように なる

ここで、Cは揚力係数、αは迎角,Aは投影面積

準定常理論は非定常空気力のうち、測定データが得られにくい流れ方向の振動に関与す る係数に適用される例もある

ここで、k:換算波数、bは半幅

 平板翼空気力はTheodorsen関数を用 いて次のように提案されている。Theodorsen関数は複雑な関数である が、ワーグナー関数の近似式を準用した近似式の提案もある2)



こ こで、Cはセオドルセン関数、Hはハンケル関数、aは剛性中心と桁中心との距離と半幅の比(通常の橋梁の場合は0でいい)である。準定常空気力は換算振度 数に依存しないが、平板翼空気力は換算振動数の関数となる。一方、静的空気力係数を迎角に対応するものを用いることで部材のねじれに対応できるが、平板翼 空気力は定義から迎角0度のものであり、静的ねじれ変形には対応できない。

 
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(3) フラッ ター方程式と発生する現象の関係

  非定常空気力が何らかの方法で定式化できたとして,構造物の運動方程式の外力項を前項の非定常空気力で置き換えたものをフラッター方程式と呼ぶ.加速度を 含めて書き下すと以下のようになる.

  非定常空気力は風向すなわち風軸と線状構造物の構造軸との関係で定義されているため,例えば骨組みを用いて構造をモデル化する場合でも,全体座標系での定 式化が必須である.また,非定常空気力係数は換算風速(逆数の換算波数)が変数となっているため,時間領域で直接フラッター方程式を解くことは簡単ではな い.つまり, 換算風速と風速の領域間の変換が必要になる

図 フ ラッター解析での骨組みモデル

  さて,フラッター方程式をある換算風速では定係数の線形方程式としてみると次のように変換ができ,斉次方程式として解けそうであることが分かる.

つまり,非定常空気力が実係数であっても,いわゆる複素固有値問題として扱えばいい

  非定常空気力に連成がない場合,フラッター方程式は卓越する振動自由度について独立した方程式として簡単に扱うことができる.つまり,この場合では減衰項 の構造減衰と空力減衰(速度同相項)の大小で振動発生が決まることになる.いわゆる1自由度フラッターがこれにあたり,ギャロッピング,ねじれフラッター については固有振動モードを用いてモード毎に振動発生の有無を議論することができる.

  非定常空気力に連成がある場合には,複素固有値問題としての扱いをさけることはできない.この場合では,フラッター方程式をそのまま複素固有値問題として 解く場合と,次のようにして解く場合とがあり,この時にはマトリックスのサイズは倍になるが,解法自体はより一般的であるといえる.但し,解は共役なもの も同時に得られるので注意が必要である.

として


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(4) フラッ ター解析手法と解析手順

長大吊橋のフラッター方程式を複素固有値解析する場合,構造モデルは通常極めて大き く,複素固有値解析も換算風速毎あるいは風速毎の繰り返しが必要となり,計算量は極めて多い.したがって,フラッター方程式を直接解くいわゆる直接法の解 析実施例は限られており,限られた数の固有モード形をモード座標に使ったサブスペース法,いわゆるモード法が通常行われる.この時,フラッターモードの精 度は選択したモード座標数の依存するが,長大橋でのフラッター発生は比較的素直なモード形で発生することは分かっており,解析例によれば50から100次 程度までの固有モード形でモード座標を組めば十分な解析精度が得られる場合がほとんどのようである.

フラッター解析を実施する場合、非定常空気力係数が換算風速(その逆数として換算振 動数)の関数であり、振動の観測する状況のイメージは風速毎のものである、差に悩む場合が多い。この差を反映して、解析手順としては

1.      換算風速で統一した場合の解法

2.      風速と換算風速を併用した場合の解法

の2つの流れがある。

先に示した非定常空気力の定式化に戻り注意すると、調和振動を仮定することにより、 無次元化した風速、あるいは振動数のみをパラメータとして運動方程式を書き直すことができる。この運動方程式について固有値解析を実施すると、ある換算風 速に対する解を一括して求めることができ、固有値として求まる固有振動数との組み合わせで、実風速への換算もできる(図)。これが前者の解析法となる。し かし、調和振動を仮定しているために減衰、発散の状況が解に微妙に影響する事が分かっている。非定常空気力の定式化自体が調和振動を前提にしていることも あり、その際を重視するの評価は注意すべきであるという指摘もある。解を一括して求められるメリットはあるものの、風速ベースで発生する静的な構造の変形 を取り込むことは難しく、特に長大橋でも抗力の小さい箱桁を補剛桁に用いた場合のような風によるねじれ(迎角に効く)が少ない場合に適用できる解析法であ る。

一方、後者では、実風速と実風速を含んだ無次元量である換算風速(あるいは結果的に 得られる振動数)を独立に仮定して解析を実施するために、ある特定の解をトレースする解法となる。したがって、複数のモードを求めようとする場合にはそれ ぞれ解を追跡する必要があり、一括して求められることはない。解析上では、手順は次のようになる。

@      風速をまず設定

A      換算風速を仮定

B      仮定した換算風速の非定常空気力を決定

C      複素固有値解析を実施し、固有振動数と固有モード形を 求める

D      追跡している固有振動数と設定した風速から換算風速を 求める

つ まり、AからDの間で収束計算を行い、設定した風速での解を求めることになる。この方法の場合、@の段階で風による変形を取り込むことには無理がなく、自 然な拡張ができる。

図 一括 解析の解析手順

 
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(5) 経験的応 答推定式

発散振動に関する応答推定式はいくつか存在する。特徴 をまとめると以下のようになる

·             多くの場合2次元部分模型風洞試験結果をとりまとめたものである。

·             発生するフラッターモード形はまげとねじれの基本モー ド形の組み合わせで代表できる

あ) 1自由度フラッターの推定式

  1自由度フラッターはいわゆるフラッター解析のグループからはずれるが、耐風設計便覧では以下のような提案式 がある

ギャロッピングに対する耐風設計便覧の推定式

 水平な 風が吹く場合

 吹き上 げの風が吹く場合

ねじれフラッターに対する耐風設計便覧の推定式

い)連成フラッターに関する推定式

  U−g法として、翼の曲げねじれフラッターを解く解法はよく知られているが、吊橋の連成フラッターに対するアプローチはタコマ橋の事故に関連したBleichの扱いが 有名である2)

 また、半実験経験的な以下のSelbergの 式は設計初期の検討のごく概略的な判断を与えるものとして用いられることは多い

 
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参考文献

1) (社)日本鋼構造協会編,構造物の耐風工学,東京電機大学出版局,1997年11月.

2)Y.C. Fung, AN INTRODUCTION TO THE THEORY OF AEROELASTICITY, Dover, p498, 1969 ( First Publication, John Wiley & Sons,1955).

3) アメリカ合衆国商務省道路局編、吊橋の振動解析(翻訳、猪瀬寧雄、高田隆信)、森北出版、1971年6月


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