橋に関連して聞かれること

橋についてよく聞かれること

 私どもは,新しい文化として橋をどう造るか,継続的な社会の発展に社会基盤資源を以下の維持していくかを研究しています.したがって,橋の文化史と言うより橋造りのイメージですので,あしからず.

橋の一般的な話題

橋の意味

 橋は広辞苑六版に「(1)おもに水流・渓谷、または低地や他の交通路の上にかけわたして通路とするもの。橋梁(きょうりょう)。伊勢物語「―を八つわたせるによりてなむ八橋といひける」。「―をかける」 (2)転じて、かけわたすもの。仲介。媒介。 」とあります.つまり,「越えたくても越えにくい障害を,安全に越すこと」が目的であって,古来希望を持って新しい世界を開く手段としてとらえてきました.
 一つの世界と他の世界の境界の意味で使われることは多くて,神社の入り口の橋はその良い例です.地域の象徴として使われることも多く,サンフランシスコのゴールデンゲート橋はその好例です

橋の歴史

 橋の歴史は古くて,渡りたいところに飛び石を置く,そして木を渡す行動で橋が生まれたと考えられています.現在でも,飛び石での橋の機能は残されていて,事例は少なくありません.石材でアーチ橋ができ,葛でつり橋ができ,木橋の構造を守るために屋根のあるカバードブリッジができてきました.それぞれ長い歴史を持っています
 ただ,近代的な橋梁と言えば,産業革命で良質の鉄材が利用できるようになってからと考えた方が良いと思います.

橋の形式

桁橋から始まって,ラーメン橋,アーチ橋,トラス橋,斜張橋,吊り橋まで,それぞれの橋を構成する力学的特徴により,長さ毎に合理的な形が決まってきます.それぞれ歴史があるし,形も違うので,いろいろな橋の形が見られる隅田川の川下りや,吊り橋の展示会のようなニューヨークのマンハッタン島を回る船旅はこたえられません.どんな力学がどんな形になるかは講義で教えます.鋼橋技術研究会のページに鋼橋についての説明がありますし,松尾橋梁のページにも良い概説があります.

吊り形式の橋の話

吊り形式の橋とは

吊り形式の橋,あるいは吊り形式橋梁という言葉は,聞き慣れないかもしれませんが,いわゆる吊橋と斜張橋を指します.
 ケーブルで吊られているものですが,ケーブルの力学で橋構造を構成するもので,桁で外力を主に支える訳ではないものを言います.小田原ブルーウェイブリッジのような最近事例が増えたエクストラドーズ橋は,桁で自重や外力を効率よく支えるための仕組みで,斜張橋とにていますが,斜張橋と区別します.吊り床版橋は,ピンと張ったケーブルに床版を持たせ,通行ができるものとしたものです.吊っている感じはしませんが,挙動はケーブルの振動そのものです.

つり橋の歴史

 植物性のロープを用いた吊り形式橋梁は,吊り橋,斜張橋共に,人類と共に歴史を刻んできたといえるほど長い歴史を持っています.平家の落人伝説を伴う,祖谷のかずら橋は有名ですね.
 近代的な吊り橋は,James Finley (1756-1828)が米国ペンシルバニアの Jacob's Creekに70ftの吊り橋を1801年かけたのが最初だとされています.ヨーロッパでは Thomas Telfordの 英国ウェールズのMenai Straits Bridge ( 1826 )が有名です.これらは主ケーブルをチェーンで作ったものです.より近代的なものは,今では基本となっている主ケーブルに平行線ケーブルを用いた,ローブリング親子家族(John Augustus, Washington and Emily Warren Roebling)によるBrooklin Bridge(May 24, 1883開通)といっていいでしょう.

自然災害,振動と橋

つり橋と強風

 近代つり橋の歴史は強風との戦いの歴史であるとはよく言われていることです.先のMenai Straits Bridge(メナイ海峡橋)は初期から強風により被害を受け,補修を重ねていますし,極めて多くの吊り橋で風による振動被害を受けています.極めつけは,崩壊の顛末が映画で撮影され,未だにショッキングな事件映像として報告されているTacoma Narrows Bridge(Nov.1940崩壊)で,事故後徹底的な解明が行われ,その教訓が現在の耐風設計技術の基礎になっています.

風による振動と風洞実験

タコマ橋の事故以来,長大吊り橋の設計で耐風設計の重要性が認識されました.耐風設計では,風荷重の構造設計への組み込み,静的な不安定現象,風による振動に対する安定性が照査されます.いずれにしても,風,つまり流体と構造物の空気力学的な問題なので,風洞での実験が主力の手法と言うことになります.本州四国連絡橋プロジェクトで多くの長大橋を架設することになって,実験精度の均質化の仕組みが導入され,世界的にも珍しい,耐風設計基準が作られました.

橋の挙動とモニタリング

 橋のどこに不具合があるかを調べ不具合を修理すること,あるいは,最近では不具合が起きそうなので前もって手当をしていく方法が維持管理の基本です.不具合が知るために,橋の状況を知ることをモニタリング,英語ではhealth monitoringといいます.橋の状態を知って,それから,さらに不具合を知ることはモニタリングの鍵ですが,かなり難しい技術です.

橋の振動と制振,制震,免震

 橋の振動をコントロールすることを制振といい,振動の対象が地震だったら制震を使います.免震あるいは免振は,振動の伝達経路をたち振動を抑えることです.簡単には,基礎と構造を切り離せばいいわけですが,具体的には支沓やゴム材など支持力を持ちながら何らかの方法でスリップさせればよく,振動を抑えるために減衰器も併用される例もあります

風と地震の比較

自然災害の代表ですが,比較はなかなか難しい.構造物のサイズで言えば,小規模から中規模のものに地震の影響が大で.大規模なものには風に影響がまさるとされてきました.長周期地震が議論され初めて,状況は少し変わってきました.
保険金(
損保協会のサイトに統計データがあります)でいうと台風被害が圧倒的におおきいのですが,これも保険の範囲によるところが大で議論があります

橋を専門とするときに何を勉強したらいいか

 橋は造れば良いという時代は終わりました.設計の決まりに従って,図化するだけなら,標準的な仕様でコンピュータで図面が出てくる時代です.そんな時代だからこそ,しっかりした物理の知識の基,専門で学ぶ構造力学,材料系の諸科目の知識が必要で,設計案を見て適切かどうかを判断する素養を身につけたいものです.
 社会的な意味での橋はどうかというと,土木工学の分野では,橋梁史としての扱いや文化としての橋は橋梁工学の一部として教えられてきました.成熟した社会を迎えた今こそ,この分野が必要になるんだろうと思います

耐風工学を専門とするときに何を勉強したらいいか

 耐風工学は学際分野です,日本風工学会のメンバーを見ると,気象系,建築系,土木系,電機系,機械系の人たちが集まっています.つまり,

  • 風自体を学ぶ気象学
    • 大きめのスケールでは,台風,季節風
    • 小さめのスケールでは,竜巻,マイクロバーストやダウンバーストと呼ばれるダウンバースト
    • それらの生成過程の分析で,地表面に比較的近い局所的気象学
    • 颪やだし,シロッコ,ミストラルなど,風土的な局所風の知識
  • 設計対象として
    • 建築ー建築とその周囲(ビル風,環境)
    • 土木構造物,交通
    • 機械ー航空,鉄道
    • 電気ー送電線,風力エネルギー
  • 風と物との相互の影響を学ぶ空気力学,あるいは空力弾性学
  • 設計の視点で問題整理をする設計論
  • 統計的な扱いをすることになるので,統計学とか確率過程論
  • 風洞実験や流体解析を分析手段とすることが多いので,その知識
が,研究対象とする分野と言うことになって,橋と風の話で言えば,上のものに加え
  • 橋の構造を学ぶ橋梁工学,構造力学
  • 構造物の振動が問題になるので,振動力学
    • 普通は線形なので,線形振動論
    • 非線形振動も時々出てくるので,非線形振動論
    • 不規則振動は大切で,不規則振動論
あたりだろうと思います.もちろん,すべてに熟達すれば好ましいけれど,研究対象に応じ,複数分野の知見を総合的に纏めていくというのが,研究スタイルです.

私がなぜ橋の研究を始めたか

なぜ橋の研究を始めたかと言えば,目に見える大きなものを作りたかった.建築と土木と比べたら,土木の方がサイズが大きかった(とアドバイスを受けた).そんな単純な理由です.
教員が言っても信頼されないことが多いので学生はというと..学生諸君は
こんなことを言ってます.

専門に取りかかる前の興味

 専門を決めるのに必要な才能や事項っていうのはあまりないような気がします.好きであることがすべてで,更に自分を磨き人としての深みを増すために,多くのものを見てください.すぐに納得するような事はせずに,とことん不思議に思っていただけると良いと思う.いろいろなものを見て不思議に思う気持ちは後で必ず役に立ちます.解決にも熱中してくださいね.熱中する気持ちは大変大事です.効率だけを考えて楽をしようとしてもダメです.よくあるけど,試験の前に「何が出るか分からないから勉強しない.」なんてのは,ダメで,何が出るか分からなかったら全部復習しましょう.全部復習して見えてくるものは,多いことが多かった気がしますよ.
 最後には,やりたいものをどのくらいやりたいかに関わっています.専門を点数で決めたり,仲間内の噂で決めるのは寂しいですよね.
 さはありながら,議論はしっかりした知識を基にするもので,思いつきで良い仕事はできません.創造的な閃きで大きなブレークスルーが生じることはあるけど,それも事前にしっかりした疑問を整理できて初めて可能になります.勉強しましょうね.